産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会

職務上の発明に関するインセンティブについての話が話題になってる。朝日の報道が誤報じゃないのかとか。
朝日新聞の“特許、無条件で会社のもの”は誤報だった 東大教授が指摘 | ガジェット通信 GetNews


問題の委員会のページはこれ。
http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/tokkyo_seido_menu.htm


日経の報道に該当するのは多分これ。

そして、原始使用者帰属制度に改正する際には、これまでの小委員会での議論を踏まえ、使用者等は、一定の手続きを経て策定した契約、勤務規則等に基づき発明者に報奨する旨を法定することが、使用者等と従業者の双方にとって有意義であると考えます。

「資料1 職務発明制度の見直しに係る具体的な制度案の検討上の論点」に関する意見

記名は「和田映一 萩原恒昭 鈴木康裕 矢野恵美子」。


資料1とはこれである。

従業者等に対する発明のインセンティブについては、使用者等の自主性に委ねるべきとの見解がある。

職務発明制度の見直しに係る具体的な制度案の検討上の論点

が該当箇所だろう。


今回の議事録はまだないので、前回の議事録を拾い読みしていままでの流れを確認してみる。キーワードはインセンティブ。冒頭からして、問題の件は最後の方の議題になっているのが分かるので、検索しながらどんどん先に進む…

○宮島委員 矢野さんに御質問というか確認なんですけれども、企業としてもインセンティブ策の重要性はすごいわかっていて、国もインセンティブ策を考えていただきたいということをおっしゃいましたけれども、これは一定の条件なるものを国が決めるということも含めてあり得ると思われるのか。産業界は基本的には企業のフリーハンドにしてほしいということをおっしゃっているわけです。私は意見を決め切れているわけではなくて、法人帰属というのはあり得るかもしれないと思うのですが、法人帰属の場合には、どんな企業もついてこれるだけのがっちりとしたインセンティブに関する条件が必要になってくるのではないかと思うところから、その一定の条件というのが本当に決め切れるのか、それは世論が納得するぐらいの基準ができるのかというところに疑念があって迷いがあるわけです。矢野さんの今の御意見というのは、ある程度インセンティブ策に国のルールなりそういうものがあるということも許容できるという意味の御発言なのか、確認させていただきたいと思います。
○矢野委員 そうではございません。というのは以前から御説明させていただいておりますように、どのようなインセンティブ策が非常に効果的かというのは、各企業、各業界によって全く違っていると思うのです。同じ基準をつくって一律に当てはめるというのは非常に難しいので、内容についてどこか第三者が審査して、これがいいとやるのでは余りいいインセンティブ策をつくることはできないと思っております。内容については、各会社が自分のところで一番効果的なものにするべきであると思っております。

産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 第7回議事録


国が何らかのルールを設けることについて相当抵抗している感じがある。

(ちなみに「国もインセンティブ策を考えていただきたい」というのはノーベル賞みたいな表彰のことらしい。)



ついでにもう一つ前にさかのぼる。

○土田委員 (略) 最後に、産業界の皆さんに申し上げたいのは、これは何度も同じことを言っているのですが、請求権の政策を採用すると、今日の紙で言えば(2)のイの?ですが、国が全面的に介入してきて、金銭的な対応が厳しくなるのだとおっしゃりたいのでしょうが、そういう選択ばかりではないですよという議論をかなり以前からしていると思うのです。企業が様々に工夫する余地を認めながら請求権を構想する選択肢はあり得るということは再三申し上げているわけで、そこの意識のずれがなかなか埋まらないのがどうも気持ちが悪いというところがあります。ただし、これも前から言っていますが、請求権という法的な技術ないし概念とどう整合させるのかということはもちろん重要な課題なのですけれども、請求権と言った途端に柔軟なインセンティブ施策ができなくなる、請求権と言わなくて初めてできるという御認識は、もうそろそろやめていただきたいと思います。

産業構造審議会知的財産分科会特許制度小委員会 第6回議事録

「気持ち悪い」とか「やめていただきたい」とか、ちょっと切れ気味ですか?

○鈴木委員 まず企業側として御理解いただきたいことは、我々としては今までイノベーションを創出するために何ができるかということで、イノベーションを創出し、パイを広げ、従業者と企業がウィン・ウィンの関係にしたいということを申し述べてきました。その上で、帰属の脆弱性、あるいは二重譲渡の問題、さらにはチームワーク、それから予測可能性の問題、こういったことを問題点として挙げさせていただきました。そういった点から考えたときに、請求権を認めるべきかどうかということ、それが予測可能性を担保できるのかどうかというあたりを議論していただいて、具体的な制度設計をお願いしたいというふうに思います。先ほど萩原委員が申されたとおり、我々としては請求権なし、法人帰属で対価請求権なしと述べておりますが、具体的な手続面において我々の指摘した問題点が解決可能であるならば、その辺の議論にも入っていきたいというふうに思っております。

(同上)

○和田委員(代理・澤井) 経団連の名前が出ましたから私が何か言わないといけないかと。
先ほど来インセンティブの話が出ているのですけれども、多分、現行制度に対価請求権があり、そのための幾つかの規定が設けられているのを見ていると、あたかもインセンティブについて法が介入するのが当然のような錯覚に陥っているのではないかなという感じがするのですね。例えば、ゲームメーカーさんなどの話を聞いてみると、彼らは職務著作に関する対価請求権など何もありませんが、企業自らの努力で、当然適切なインセンティブ策ができなければ競争に負けてしまうので、一生懸命講じているわけです。そういう状態がある中で何で企業内の発明だけにインセンティブを法的に強制するのかが意味不明という感じがいたします
一方で、今お話をしたように企業が生き延びていくためには内部問題としてインセンティブ施策は当然講じます。今、井上先生がおっしゃったように、経団連としては2月に声明を公表して、それを折に触れて、会員企業に対しては周知をやっています。特に、地方で開催するいろいろな経団連企業との会合においては、その声明を公表した経緯やその趣旨を丁寧に説明して、仮に法人帰属になった場合でも自助努力でいろいろなことを講じていかなければいけないという話はしており、例えば社内規程の整備や改正をしたほうがいいのではないかという話はしています。それから、そういう意味で産業競争力強化と発明者のインセンティブの向上をうまく調和させていくことが1つの課題だと思っていますので、そういう観点からも、今お話をしたような関係団体とのさらなる対話や、それから井上先生がおっしゃった啓発活動を行なっていくということは、中で議論はしています。

(同上)


この辺が第7回での「企業のフリーハンド」なのか。

「法が介入するのが当然のような錯覚に陥っている」「法的に強制するのかが意味不明」だとまで言ってるんですね…代理ですけど。この時点では第8回の意見書とは正反対のことを言っています。完全に自立的にやりたいという方針で、朝日が報道したとおりの内容です。


これは、朝日の事前報道は適切だったと思うな。
あの報道の反響を見て切り替えたんじゃないかと思えるほど経団連の委員が方針を転換している。「これまでの小委員会での議論を踏まえ」って、全然「踏まえ」てない。ずっと反論し続けていたじゃないですか…



なお、同じ第8回の参考資料でも、古い日付の「経団連の声明」は次のようになっている。

今後、法改正により法人帰属となっても、従業員の発明に対するモチベーションの維持・向上のため、企業は、今後とも発明者の貢献に対する評価と処遇を、各社の規則に基づき適切に講じていく。

http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/newtokkyo_shiryou008/02.pdf

あくまで「各社の規則に基づき」という路線で、第六回の議事録に相当する内容。まぁ声明の日付が第六回よりも前ですから当然ですが。でもこの文書がこの回の参考資料だったのはどういうわけなのでしょう?


なお、朝日新聞が企業代表に対する圧力として民意誘導を仕掛けたという憶測は、全くもって否定しません(笑)

会議から一ヶ月、まだ議事録が出ない。月末まで出ないパターンか。