出版社の隣接権

AMDは前述のように不正流通対策の活動を続けているが、不正流通対策は、非正規コンテンツを掲載・販売しているウェブサイトや販売者に対する削除要請や訴訟などの対応を継続的に行う必要があるが、現状の出版者はこうした対応を行うに必要な権利を保有していないため、個々にこうした対策についての委任契約を結ぶなど煩雑な作業が必要となり、結果的に不正流通対策の妨げになっている点も指摘した。

AMD、出版分野における出版者への権利付与の動きに賛同を表明 -INTERNET Watch Watch

要点はここだろう。


自炊代行問題の訴訟で原告として担ぎ出された先生達がいまいち趣旨を理解できていなくて、「断裁するのは許せない」とか明らかに方向性の違うコメントを発表してしまったりしていたのを見ると、どういうことかよく分かる。


本来著作物の私的複製(自炊)行為は利用者が自分で行わないと著作権法上合法にならない。したがって、「代行サービスの利用者は権利者から代行の許可を取ること」という一文は、たいていの自炊代行サービスの注意書きに書かれていた。実にあり得ない前提だが、この一文を書いてあることで違法なのは自分たちじゃなく利用者の方だということにしてあったわけだ。
そこで出版社側は「うちの本はどれも許可を出していない」と宣言してこの前提を破壊したかったのだが、実は出版社にはそれを言う権利が現状ない。これが「必要な権利を保有していない」ということの意味だろう。
仕方がないので出版社は「権利を保有している」著者を引っ張り出してきて宣言してもらい、続く訴訟の原告にもなってもらったのだが、事前のすりあわせがうまくいっていなかったのであろうか、ああいう発言が出てきて一般へのアピールで論点がずれてしまった。
断裁の是非という件はあの訴訟とは関係なかったはずなのだが、今でも「断裁するのがいけないのか?」という発言をよく見かけるぐらいだ。


じゃあ、事前のすりあわせが出来ていなかったから全ていけないのかというと、これが「個々にこうした対策についての委任契約を結ぶなど煩雑な作業」という部分になる。これは出版社も面倒だが、著者もそれ以上にめんどくさいだろう。なにしろ、ある程度の規模の出版社なら法律事務担当者を入れればそれですむが、著者の方はそうもいかない。かといって、全部出版社にお任せ…ということになればどのような契約内容になるか分からず、著者の方がはるかに不利だろう。全ての権利を二束三文で出版社に利用させる*1という契約書にサインさせられかねない。個別に契約を結ぶとなると「専門家と素人が対立する権利について争う」事になるわけだから、当然だ。


一方、公的な権利として隣接権を与えるということになれば、出版社に与えられる権利が正当であるかどうかを論争するのは「専門家同士」ということになる。何しろ個人の契約に関わる問題ではなく、国の法改正に関わる問題になるのだからでてくる専門家も違ってくる。この場合、出版社が用意する専門家の方が下位ということもあり得るだろう。出版社が著者に対して誠実であると期待しない前提である場合、その方が著者にとってはるかに有利ではなかろうか?

出版社に隣接権を与えることに反対している人たちは、基本的に「出版社は著者に対して公正に振る舞わない」と思っているはずだ。その出版社が著者と個別の契約を結ぶ…というのは明らかに著者にとって不利な状況だと断言できる。公的に権利を定めるということは同時に公的に権利の範囲も定められるという事なのだ。


但し、その議論において出版社に対抗する「専門家」が存在することが前提条件になるが、今のところ批判的な人がたくさん湧いているようなので大丈夫だろう(笑) いや、全部ずぶの素人だったら知らないが…

他にいなければきっとロージナ茶会の白田総統とかがやってくれるに違いない(笑)
いや、普通に考えて審議会とかが立ち上げられて、日弁連とかから論客がたくさん現れるはずだけど。

*1:譲渡は著作権上絶対に出来ないらしいので、そう書いてあると多分違法で無効。