まねきTV、ロクラク。あるいは知財高裁とはなんなのか。
判決文を読んでみたが、「その判断はないだろう」と思わされた。
特にまねきTVの方は原判決が厳密だったせいか、ひっくり返された箇所が鮮明で違和感も鮮明だった。
このことからすれば,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することに
より,当該装置に入力される情報を受信者からの求めに応じ自動的に送信する機能
を有する装置は,これがあらかじめ設定された単一の機器宛てに送信する機能しか
有しない場合であっても,当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であると
いえるときは,自動公衆送信装置に当たるというべきである。
上記はまねきTVの判決文の「5-1-ア」の最後の部分。「当該装置を用いて行われる送信が自動公衆送信であるといえるときは」という前提が今回は成り立っていないはずである。
自動公衆送信は,公衆送信の一態様であり(同項9号の4),公衆送信は,送信
の主体からみて公衆によって直接受信されることを目的とする送信をいう
という直前の定義から、自動公衆送信であることが成り立つには「当該装置を用いて行われる送信が公衆によって直接受信される」必要があるはずだが、設置されている装置にその機能はない。*1
好意的に解釈して、「一度に単一の相手にしか送信できなくても、次々に送信先を変えて結果的に公衆が受信できるなら公衆送信である」という読み方*2をしてみても、そもそも対象の装置は送信先を「あらかじめ設定された単一の機器」に限定してしまうものなので送信先は変わらない、やはり成り立たないだろう。
この違和感がちょうどあてはまる例として思いめぐらしてみて浮かんだのは、「FTPでのアクセスにパスワードが設定されている以上、httpによる認証無しのアクセスでデータが流出していても不正アクセス禁止法が適用される」とされた事件だった。
「不正アクセスとは何か」--office氏の判決を読み解く - CNET Japan
上記の件は「明らかに事件が理解できていないなぁ」と思わされる内容だったが、今回の件でも同じぐらい訳の分からない事実の繋がり方をしている。*3
これに比べるとロクラクの方は「アンテナを繋いでおくことが複製の主体」という主張がされているだけで、「感覚としてとてもそうは思えない」という程度かもしれない。参考意見として「カラオケ法理」が出てくるので、「カラオケの機材を置いた店は著作権料をJASRACに支払う必要がある」のと同じ論理を展開しようとしているのではないかと思うが、だったら請求できるのは「店にテレビを置いたときの受信料」なのではないかとも思える。
そもそも、そのサービスを介してテレビを観ている人にはCM*4が一緒に配信されているわけだから、テレビ局側の遺失利益は「CMのローカルなターゲット性」が損なわれているだけなのではないかと。
こんなよく分からない判断でひっくり返るなら一体何のために「知財高裁」などというものを作ったのか首をひねるのだが、むしろこう考えると納得できる気がした。
「なんで高裁の判断が重要視されるような仕組みがあるんだ。最高裁判所(の裁判官=俺)の方がえらいんだぞ。」(注:私の創作です)
もし本当にこんな感じだったら最高裁判所に絶望するが(笑)
備忘録として裁判官のリストを判決文から取り出してみた。(最初の二人は裁判長)
田原睦夫 金築誠志 那須弘平 岡部喜代子 大谷剛彦 宮川光治 櫻井龍子 横田尤孝 白木勇
*1:原判決で「各ベースステーションは,あらかじめ設定された単一の機器宛てに送信するという1対1の送信を行う機能を有する」としていると判決文で引用されている。今回の判断(上訴)では「事実」については検討しないと聞いたので、この点は争われないはず。
*2:オンデマンド通信はそういう感じで通信しているんだろう。判決文の省略した間の文章を見るとそう考えていると思える節もある。
*3:ちなみに、「データが残っている状態でアクセス方法を公表するのはないわ…」というのが個人的にはこの事件に対する感想なのだが、そんなことより判決の論理の無茶苦茶さに驚いた記憶が。
*4:録画を前提としているなら実際に見るかどうかはともかく