自炊代行最高裁判断

「自炊」代行は著作権侵害 最高裁で確定 - ITmedia NEWS
http://www.yomiuri.co.jp/national/20160317-OYT1T50119.html

訴訟が起こるまでの経緯とか憶えている私からすると「そんな結果の分かっている訴訟をいつまでもしていたのか」という感想なのだが、ブックマークとかを見ると経緯も判決がそうなる理由も分かっていない人が多いらしい。

  • 前提

(私的使用のための複製)
第三十条  著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html

以下には私的利用でも許されない場合が列挙される(コピーガードの解除とか)のだが、本題ではない。自炊代行の問題で中心になるのは「その使用する者が複製することができる」という一文である。この一文があるために「代行すると私的利用とは認められない」という単純な理屈が発生する。従って「結果の分かっている訴訟」という感想がでてくるのだ。

(単純に保護法益を考えるのであれば、「所有者が自分で使用する場合に限り複製できる」という文章の方が良いと思うが、じつはそうすると「友人の本を1ページだけコピーする」がアウトになるのでそれはそれで問題だろう。)


  • 代行業者の論理

BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

これはブックスキャンの現在の規定なのだが、今回判決の出た裁判に関わっていない業者はたいてい昔から同様のことを書いていた。

BOOKSCANのPDF書籍変換システムへ依頼できるものは、著作権法に基づき、著作権フリーのもの、著作権が切れているもの、ご自身で著作権を有しているもの、著作権者の許諾を得ているものです

つまり「利用者の方で著作者に許諾を取ってから依頼して下さい」というものだ。この規定を置くことで、「利用者が許諾を取っていなかったのは利用者が悪い」という予防措置を執っていたのである。

  • 著作者側の対抗

著作権侵害を防ぐには裁判しかない、東野圭吾氏らが自炊代行業者を再び提訴 -INTERNET Watch Watch
書籍の自炊代行業者に対する作家7人の訴訟、控訴審でも作家側勝訴 -INTERNET Watch Watch
「全部自分でスキャンしろってこと?」 自炊代行「敗訴判決」に利用者から怒りの声 - 弁護士ドットコム

これに対して自炊代行の違法性を訴える人達(多分出版社だと思う)がうったのは、作家の何人かを集めて「私は自分の著作物に対して一切自炊代行の許諾を出していないのだが、私の本について自炊代行の依頼が来たらあなたはどうするのか」という公開質問状である。

大手の大半は「許諾がとれていない事が確認されているので、あなたの本については作業を行いません」という回答をした。

多くの中小はそもそも事業をたたんだ。

そしてごく一部は「作業する」と答えたり、回答しなかったりした。このごく一部に対して、実際の事例を探って著作権法違反の訴訟をたてたのが今回の件である。

なお、弁護士ドットコムの記事には明確に書かれているが、この件は「代行」についてのみを取り扱っている。正真正銘の「自炊」は対象では無い。

なお『私的複製として「認められる余地がある」』という発言を問題だと思う人もいるのだが、自分で複製しても「私的利用」の定義をはみ出せばアウトなのでそこまで間違ってはいない。但し、訴訟原告の作家の人達はおそらく権利の都合上担ぎ出されただけなので、法律の細かいことは理解していないのではないかと思うことが多い。(最近になって海賊版訴訟を出版社が起こす権利が認められたのは記憶に新しい。)「本を断裁するのが許せない」という謎発言が出たこともあった…。

なお最も問題がないといわれているのは「機材と作業場所をレンタルする」という形態で、これで問題になった業者は「スキャンするための断裁済みの本まで貸していた」ところだけである。(なおその業者は自主廃業したはずので公的判断はない。)


  • 自炊業者側の対応

「自炊代行業者も土俵に上がって」 蔵書電子化のルール作りは可能か、著者や出版社の代表が議論 (1/2) - ITmedia NEWS
自炊代行「許諾」の未来とは、“蔵書電子化”関係者座談会(前編) - INTERNET Watch Watch
非破壊型スキャナーで自炊代行に影響は? “蔵書電子化”関係者座談会(後編) - INTERNET Watch Watch

ビジネスとして回していくにはどうすれば良いのかということで、大手の自炊代行は「全てを合法に行う方法」を確立しにかかった。この辺までが私の記憶している範囲である。


BOOKSCAN(ブックスキャン) 蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷 - ライツコントロールセンター

今回初めて気がついたが、bookschanはこういう仕組みを提示しているようだ。

なお、よく間違えている人がいるが「拒否している人を除けばよい」のではなく、「許諾を得ない物が含まれていては駄目」なので注意。

  • おまけ

「私的利用」の「除外規定」に以下のものがある。

公衆の使用に供することを目的として設置されている自動複製機器(複製の機能を有し、これに関する装置の全部又は主要な部分が自動化されている機器をいう。)を用いて複製する場合

実はこの規定により「コンビニのコピー機で本のコピーをとると違法」になっている。じゃあなぜいま大丈夫なのかというと以下の経過措置によるものだったりするらしい。

(自動複製機器についての経過措置)
第五条の二  著作権法第三十条第一項第一号及び第百十九条第二項第二号の規定の適用については、当分の間、これらの規定に規定する自動複製機器には、専ら文書又は図画の複製に供するものを含まないものとする。

あくまで「当分の間」の「経過措置」だったりする…。これは著作権界隈では有名な話らしい。

…あ、自炊用の「自動スキャナー」を設置して作業スペースごとレンタルする事例もこれに合致しているわ。